脳の機能障害により、さまざまな刺激を伝え合う神経のネットワークにトラブルが生じ、幻覚や妄想、考えがまとまらない、意欲低下、認知機能低下などの症状が出現します。およそ100人に1人の割合で発症するとも言われており、決して特殊な病気ではありません。薬や精神科リハビリテーションなどの治療を継続することで、きちんとコントロールできる病気です。
近年、うつ病を含む気分障害の患者さんが増加していることが指摘されています。精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、様々な理由から脳の機能障害が起きている状態です。眠れない、食欲がない、一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった状態が続いている場合、うつ病の可能性があります。
脳が上手く働いてくれないため、ものの見方が否定的になり、自分がダメな人間だと感じてしまいます。そのため普段なら乗り越えられるストレスも、より辛く感じられるという、悪循環が起きてきます。日常生活の中で、仕事や学校、家庭内など様々な場面で、憂うつに感じたり落ち込んだりといった感情変化は誰もが経験しますが、その程度が大きく、あるいは、その期間が長くて日常生活全般に支障を来たすようであれば、無理せず早めに専門機関に相談しましょう。そして、ゆっくり休養をとることが大切です。
上記のうつ病を疑われた患者さんの中に、双極性障害(躁うつ病)と判断される患者さんが含まれていることが分かっています。双極性障害とうつ病は治療方法が異なるため注意が必要です。
うつ状態だけが起こる病気を「うつ病」といいますが、このうつ病とほぼ同じうつ状態に加え、うつ状態とは対極の躁状態も現れ、これらを繰り返す慢性の病気です。躁状態では、気分が高まって元気になったと感じており、あまり眠らなくても活動できます。何でも出来る気分になったり、急に偉くなった気になったりします。多弁になり、喜怒哀楽の感情表出が激しくなります。ときに躁状態とうつ状態が混じり合う混合状態もあります。
およそ100人に1人が罹る病気と言われ、20-30代前後に発症することが多いとされますが、高齢者にも現れることもあります。治療には情動安定剤が主に用いられます。
自分の意思に反して(自我違和感)、不安や不快な考え(強迫観念)が頭に浮かんできて、それを抑えようとしても抑え切れず、またそのような考えを打ち消そうとして、無意味な行為(強迫行為・儀式的行為)を繰り返さずにはいられなくなる心の病気です。手洗い行為や確認行為がよく知られています。日常生活や社会生活に支障を来たすようであれば、治療の対象となります。薬物療法と非薬物療法(行動療法)が治療の基本となります。
不安とは漠然とした恐れの感情で、誰でも経験します。ただ、明確な理由がないのに、あるいは、理由があってもそれと不釣り合いに強く、または繰り返し起きたり、いつまでも続いたりする不安は、病的不安です。
突然理由もなく、動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった発作を起こし、そのために生活に支障が出ている状態をパニック障害といいます。
このパニック発作は、死んでしまうのではないかと思うほど強くて、自分ではコントロールできないと感じます。そのため、また発作が起きたらどうしようかと不安(予期不安)になり、発作が起きやすい場所や状況を避ける(広場恐怖)ようになります。
一方で内科的検査では異常がないために、「気のせい」「気にしすぎ」「性格的なもの」などとみなされ、病気だと思われないことがあります。
まず不安障害という精神疾患であり、治療可能な病気だということをよく理解しましょう。不安障害・パニック障害が長引けば、うつ状態やアルコールなどへの依存につながる場合があります。
他者からの注目を浴びることで過剰にストレスを感じてしまい、不安や恐怖を呈する病気です。大勢の前で、あるいは初対面の人と話をするのが苦手で、不安を感じて緊張してしまい、動悸・息苦しさ・手足のふるえ・声のふるえ・吐き気・尿が近くなる・頭が真っ白になる・顔が赤くなる・めまい・発汗などの多彩な症状が出現します。
このような状況を恐れるあまり、その状況を避けようとして学校や会社などに行けなくなるなどします。もともと、日本人の性格傾向として「恥ずかしい」と感じる人が多いのですが、日常生活や社会生活に支障を来たすようであれば、治療の対象となります。
睡眠障害は、広く睡眠に関する病気全般を指す用語です。夜間の睡眠が障害されるもの、日中の眠気を呈するものが含まれます。一般的には不眠症のご相談が多く、不眠は様々な疾患で現われます。夜間に就床してもよく眠ることができず、日中に生活の質の低下がみられる場合に不眠症と診断します。不眠症以外にも、睡眠関連呼吸障害、過眠症、概日リズム睡眠障害、睡眠時随伴症、睡眠関連運動障害などの睡眠障害があります。
夜間の不眠症状には、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠困難があり、それぞれに適した睡眠剤があります。日常生活習慣などを見直したうえで、医師の診察のもとでご自身にあった睡眠剤を用いましょう。
動悸やめまい、ふるえ、発汗、喉の違和感や息苦しさ、のぼせ、ほてり、ふわふわ感などが続くのに、内科や婦人科、耳鼻咽喉科などを受診しても「検査で異常がない」と言われた経験はありませんか。自律神経系の多彩な症状を総称して、このように表現することがあります。ひとつの確立した疾患概念があるわけではありません。心理社会的なストレスの影響であることも多いため、他の診療科において異常所見がなかった場合には、精神科心療内科にご相談下さい。
一旦正常に発達した知的機能が持続的に低下して、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をいいます。正常に働いていた脳の機能が低下して、記憶や思考への影響がみられる病気です。
「認知症」はいわゆる総称であって、アルツハイマー病や脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症の四大認知症のほか、多くの認知症性疾患があります。
そのなかには、早く治療を開始すれば、いわゆる「治る認知症」もあります。年齢のせいだからと放置せず、早期発見早期治療が大切です。
単なる物忘れだけでなく、直ぐに言葉が出ない、お釣りの計算が出来ない、外出すると迷子になる、段取り・要領が悪い、気分の変動(抑うつやイライラなど)、冷蔵庫に同じ商品が並ぶ、鍋焦がし、物がなくなった(見当たらない、盗られた)、… 気になるサインが出現したときにはお早めにご相談下さい。
下記は、当院院長が日本語版を作成した家族のための認知症初期症状チェックリストです。「撮って診る!認知症」というFUJIFILMのホームページサイトにも紹介されています。是非ご活用下さい。
牧 徳彦ら:脳神経50(5);415-418,1998より引用
事故などによる頭部の損傷により、人間独自の高次(情動・記憶・言語など)脳機能が障害された状態です。ときには本人でさえ、その変化に気付かないため、目に見えない障害とも云われています。以前と比べて何となく怒りっぽい、素っ気なくなったなど、日常生活で些細な変化として現れます。
自閉性スペクトラム症は、対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴を持つ発達障害の一つです。以前は、自閉症の特性をもつ障害は、典型的な「自閉症」に加え、特性の目立ち方や言葉の遅れの有無などによって「アスペルガー症候群」「特定不能の広汎性発達障害」などに分けられていました。典型的な「自閉症」は、言葉の発達が遅れ、相互的なコミュニケーションをとるのが難しく、「アスペルガー症候群」では言葉の遅れはなく、比較的コミュニケーションが取りやすいという特徴があります。
一方で、これらの障害では対人関係の難しさやこだわりの強さなど、共通した特性が認められます。そのため、別々の障害として考えるのではなく、虹のようにさまざまな色が含まれる一つの集合体として捉えようとするのが「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)」という考え方です。治療の基本的な考え方は共通ですが、一人ひとりの特性を理解したサポートの重要性が着目されるようになってきています。
心身症とは、ひとつの病気ではなく、精神的なストレスが原因となって身体に症状が出ている状態のすべてを示します。従って、症状の発生や悪化に、ストレス(心理的・社会的)が影響している身体の病気や症状は、すべて心身症に含まれます。例えば、糖尿病や高血圧であっても、その病態にストレスが大きく影響していれば心身症になるわけです。
心や身体の状態コントロールには、大きく自律神経系・内分泌系・免疫系の3つが関与しています。「心」と「身体」は、これらのシステムが相互に作用しながら全体のバランスを保っています。そのため、心や身体のどこか一部分に変化がおきると、その部分だけの問題では済まず、全身の様々な働きに連鎖的な影響を及ぼしていくことになるのです(心身相関)。
治療には病気を持った個人を、総合的に見ていく姿勢が大切であり、生活環境や習慣、精神状態などといった幅広いものの影響を調整していくことも必要となります。